ワンチャン (23)

↓前作です!

社長付き秘書が、本マグロ中トロ使用の最高級桶を注文していたその頃。部下Cは、会社近くのカフェで日替わりランチ(600円)を待っていた。

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店に入ってからずっと視線を感じる――。1人だけではない。複数人、しかも男ばかり。視線はわたしを通り越して、目の前の同僚に向けられていた。当の本人は無遠慮な視線に気づいた様子もなく、熱心にスマホを操作している。

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色白でつるつるの肌、ぱっちり二重にマッチ棒が乗りそうなバサバサ睫毛、小さめの鼻、ぷるんとした艶やかな唇。小柄でほっそりとした美少女(に見えるが実は成人済み)は、性格も良かった。少々世間知らずで天然なところはあるものの、顔に似合わずサバサバしていて、誰にでも親切だった。留学経験がある才女で、仕事もそつなくこなしている。

神様は彼女のことをよほど気に入ったのだろう。有り余るくらいの財産まで与えていた。本人はひた隠しにしていたが、実は某大手ホールディングスの社長令嬢なのだ。素性を知る人間は彼女のことをこう呼んでいた。プリンセスと。

彼女の正体を知っているのは、わたしを含めた3名と社長だけだった。社長には、プリンセスの母親から「御社を援助させていただきますので、娘をよろしくお願いします。私のことはくれぐれもご内密に」と直々にお言葉があったらしい。

そしてわたし達は、プリンセスを護衛するために派遣された潜入社員だ。

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他の社員と同じように働きながら、プリンセスを見守るのが主な任務である。バレないように細心の注意を払っているので、プリンセスはわたしのことをただの同僚だと信じていた。同じ部署の同期ということもあり、たまにこうやってランチもご一緒している。

「やった!」

スマホをいじっていたプリンセスが、右手で小さくガッツポーズをした。いちいち可愛い。キュン死者続出である。やけに嬉しそうだが、何かイイことがあったのだろうか。わたしは彼女のスマホを盗み見た。

 

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ルーレット?ドラクエ10のアプリだろうか。

ちなみにわたしのLINEアイコンはキングスライムである。会社から専用のスマホを支給された時、ボスが部下のアイコンをドラクエのキャラクターに限定したのだ。「仕事にも癒しが必要」らしい。

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ピロン♪

LINEの通知音が鳴った。噂をすればボスからだ。

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甥の写真?ああ、お局様主催の女子会の時に撮ったやつか。

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何だろう急に。パッと思い浮かぶのは、高校生だと判明した時の同僚達のガッカリした顔くらいだが。分かりやすくテンションだだ下がりだった。プリンセスだけが料理に集中していた。お嬢様は色気より食い気のようだった。

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プリンセスと?注文する時に二言三言、会話してたくらいだと思うが。

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思い出せと言われましても…。

上司の無茶ぶりに困惑していると。

 

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チリンチリン♪

カフェの扉に取り付けられたドアベルが、軽やかな音を立てた。

 


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店に入ってきたのは、ほかでもないお局様の甥っ子その人だった。

 

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長身の青年が、こちらを見て爽やかに笑った。

 

【続く】